【133】 参議院選スタート 保革逆転必至              2007.07.14


 第21回参院選が12日に告示された。与野党どちらが、参院全議席(定数242)の過半数122を制するだろうか。
 非改選(定数121)の勢力は、自民、公明両党などの与党系が58、民主、共産、社民、国民新各党などの野党系が63。改選数121のうち、過半数確保に必要な議席数は、与党系が64、野党系が59。公明党が目標としている議席13を確保できた場合でも自民党は前回2004年の49議席を上回る51議席を獲得しなければならない。


 以前、まだ国会開催中、この選挙で参議院における与野党逆転は必至だと書いた【参照】。それは社会保険庁や政治とカネに対する国民の怒りの表われであることは確かだけれども、時代の要請でもあると思うからである。


 現在の日本には社会保険庁の問題に象徴されるように、自民党長期政権の塵や芥が溜まりに溜まっていて、これをキレイにするには政権交代が必要なのだ。長い年月をかけて、目に見えないところに沈殿した澱(おり)のようなものは、人間が英知を傾けて法律を作り、制度を変えたとしても、知恵や手段では取り除けるものでなく、政権交代という視点の転換なくしては掃除ができないものだからである。
 自民党長期政権の弊害は、何といっても政官財の癒着を生み、談合・金権・腐敗構造の社会を形成してしまっていることだろう。ひとつの勢力が長く権力の座にいると、避けられない弊害なのかもしれないが、それにしても日本の政界・官界・産業界に根を張った利権・特権構造は見逃すことはできない。


 政界における「政治とカネ」の問題にしても、自民党の改革案は、今にしてもやはり民意からかけ離れて生ぬるく、民主党はより緊張感を持ったものを提示している。今は反対党としての厳しさを提案しているのであって、政権党になれば権力に驕ることになるのだとしても、そのときは政権をスベルことになるのだから、政権交代の重要性は理解されよう。


 社会保険庁に代表される官界の傲慢・無責任・無能ぶりは、やはり単独政党の長期政権が生んだ弊害である。失われた10年を経てもなお上昇できない経済…、昨年12月には「+成長が59ヶ月続いていて、1964年の東京オリンピックの翌年から始まって57ヶ月続いたいざなぎ景気を超えた」と政府は発表しているが、真っ赤な嘘である。
 この間、国民の実質所得は確実に低下しているし、ゼロ金利政策を続けて本来家計に入るべき膨大な収入が、政府(国債)と金融機関に吸い上げられている。もし今、金利が3%あれば、日本の個人金融資産は1500兆円だから45兆円の増加が見込まれよう。税金・経費を引いても30兆円の収入が家計から失われているのである。なぜ、日本の国民は暴動を起こさないのだろうか?
 ゼロ金利政策で、日本は大きな国益を損ねていることも指摘しておかなくてはなるまい。利益を内部保有にまわす傾向が強い日本の会社は、株主への配当を優先する外国の会社に比べて株式配当は低く、このため企業の時価総額が安くなる。割安感の強い日本の会社の株式が、安い金利で円を調達した外国の投資家・ファンドに買われているのである。一説には、株価の押し上げに貢献しているという見方もあるが、日本の公開株式の28%を外資に買われ、技術力や製品完成度の高い企業が、敵対的TOBの脅威にさらされている。
 国家が企業を経営している中国などが、5月から解禁された三角合併などの手法も使って、日本の企業の買収にかかったとき、防衛の手段はあるのだろうか。例えば、日本最大の三菱UFJの上場時価総額は14兆4千億円、中国銀行は18兆8千億円(1兆2千億元)、中国工商銀行に至っては26兆9千億円(1兆8千億元)もあって、日本の銀行をいくつでも買収できてしまう。
 日本経済が世界で評価されていないことの現れである「円安」…などなど、財務省、金融庁(内閣府)・通産省、そして日本銀行と、日本が得意であったはずの経済関係省庁にもその無能振りが目につく。
 さらに、ここ30年間、何一つとして解決できた案件のない外務省、薬害エイズ・医師不足・年金と問題が噴出している厚労省、学力低下を招いて為す術のない文科省…と、こう並べてみると、官僚の無作為・無責任・無能さは疑うべくもない。官僚をここまで堕落させたのは、政治の責任であり、なかんづく自民党一党独裁が生んだ弊害である


 参議院選は、政権交代を決定する選挙ではない。保革逆転が必死となった今も、安倍首相の退陣論が浮上しないのは、年金問題は安倍首相の任期中に生じた問題ではないということと、敗北が必死であることが却って責任論を沈静化させているのである。これだけ杜撰な年金処理を見せられては、誰がやっても敗北は避けられないということだ。先の国会で安倍首相が見せた強行採決の連発は、逆転を見越して「今通さなければ、選挙後には通らない」との決意の表われであったのだろう。
 小沢民主党代表の、「負ければ政界を引退する」という発言(本人はマスコミ先行の言葉だといっているが)も、余裕の表われである。ただ、民主党においても、結党以来の鳩山・菅に、古い自民党を代表する小沢が加わった体制は、すでに役割を終えている。
 この意味で、参議院での与野党逆転は、政界再編への模索を誘発することだろう。衆議院で可決して回ってきた法案が、ことごとく渋滞し廃案になってはたまらない。政権を死守しなければならない安倍自民党は、自分たちよりもまだ右寄りだという評判の民主党前原グループに手を入れるか。民主党としても、今のままの極右から極左までの寄り合い所帯では、政権担当は覚束ない。一度は通らねばならない、解党的整理の道である。
 この参院選で自民党が大敗して、参院の運営が二進(にっち)も三進(さっち)もいかなくなったら、政界大再編の形を整えた上で、衆議院の解散である。いよいよ政権を手にすることができるというときに、民主党は存在するのか? そこまでの可能性を内在させながら、あと2週間…、7月29日に保革逆転の参議院が実現する。


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